睡眠不足から探る日本と諸外国の違い

日本人の睡眠時間は諸外国と比べて短いとされ、近年ではより一層寝る時間が短くなってきている現状があります。

睡眠時間が短い事によって本来、脳を育て整理する機能や身体の疲労を排除し成長させる機能が阻害されてしまいます。

うつ病や生活習慣病等の疾患への罹患率を上昇させ、心筋梗塞や脳卒中、糖尿病などの健康リスクを高める事が分かっています。

日本と諸外国の総睡眠時間

各国の平均的な睡眠時間を調査したOECD(Organisation for Economic Co-operation and Development)のグラフがあります。

それによると日本の平均睡眠時間は7時間22分と圧倒的に少なく、毎年ワーストワンを韓国と入れ替わりで争っている現状があります。

労働時間が長く慢性的な睡眠不足の症状が多い国民とされ、それらは様々な問題に繋がっています。

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睡眠不足による経済損失

一定期間内に国内で新たに生み出されたモノやサービスを国内総生産(Gross domestic product)として表しますが、睡眠不足がGDPを著しく低下させることは多くの研究から示唆されています。

その理由として睡眠不足が職場での死亡リスクと生産性の損失の増加に関連しているとされ、平均6時間未満の人と7時間以上の人とを比べた場合、死亡リスクが13%高いという事が分かっています。

下記は各国の睡眠不足による経済損失を比べた数値になります。

国名 経済損失額 GDP比
カナダ 214億ドル 1.35%
アメリカ 4110億ドル 2.28%
イギリス 500億ドル 1.86%
ドイツ 60億ドル 1.56%
日本 1380億ドル 2.92%

経済損失の額からみればアメリカが1位(4,110億ドル)であり、日本が2位(1,380億ドル)となり、日本の3倍近い数値となっている事が分かります。

その為、アメリカでは睡眠不足を「公衆衛生上の問題」と宣言しており、社会的課題の1つとみられています。

日本も他人事ではなくGDP比でみた場合(2.92%)、その数値はアメリカ(2.28%)を超える経済損失となっていることが分かります。

各国の睡眠満足度

2020年に実施された世界睡眠調査では、世界13か国、1万3000人の成人を対象に「睡眠満足度」について調査が行われました。

以下のグラフより満足度が高いインド(76%)、ブラジル(60%)と対照的に日本(32%)やフランス(37%)は40%を下回っております。

世界と比較した場合、日本の睡眠満足度は最下位であり、10人中7人の成人が睡眠に満足していないという結果が出ております。

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日本人の睡眠時間

厚生労働省の統計では、睡眠時間が男女ともに「6時間~7時間未満」が34.7%と最も多く、「5時間~6時間未満」が23.9%、「7時間~8時間未満」が15.9%となっています。

睡眠時間と疾病疾患については、がんに於ける死亡リスクが一番低いグループで6.5~7.4時間といわれ、うつ病の発症リスクについては6時間~8時間未満がうつ症状の悪化や発病のリスクが低いと言われます。

睡眠時間そのものが疾病や疾患と大きく関わっており、日本人全体の睡眠時間をみると約半数がリスクの高い睡眠時間の範囲内にいることが分かります。

【日本人の睡眠時間と割合】
9時間以上      6%
8時間~9時間未満  10%
7時間~8時間未満  16%
6時間~7時間未満  35%
5時間~6時間未満  24%
5時間未満      9%

 

睡眠についてのアンケート

令和3年度の健康実態調査では、睡眠のとれている度合いについてのアンケートも行われました。

それによれば「夜間、睡眠途中に目が覚めて困った」と回答したのが全体の45%、次いで「日中、眠気を感じた」が37%、「睡眠全体の質に満足できなかった」が35%となっており、多くの人が睡眠について何らかの不満を抱いているようです。

【睡眠のとれている度合い】
29% 寝つきに時間がかかった
45% 夜間、睡眠途中に目が覚めて困った
30% 起きようとする時刻よりも早くに目が覚めて、それ以上眠れなかった。
20% 睡眠時間が足りなかった。
35% 睡眠全体の質に満足できなかった。
37% 日中、眠気を感じた。
18% 上記のようなことはなかった。
2%   未回答

行動誘発性睡眠不足症候群

行動誘発性睡眠不足症候群(Behaviouraly induced insufficient syndrome)とは意図的に眠らないようにしようと思っている訳ではないのに、自身の行動によって睡眠時間を無自覚に削っている状態を指します。

睡眠に不安のある状態ならまだしも、睡眠不足が原因にも関わらずそれさえも自覚せずに過ごしている方が日本には多いのかも知れません。

生活習慣による慢性的な睡眠不足や睡眠不足の改善に睡眠以外の方法で対処する心理など、多くの方が該当するのではないでしょうか。

改めて以下に記載される行動誘発性睡眠不足症候群と照らし合わせて、当てはまっているか確認する事が重要になります。

【行動誘発性睡眠不足症候群の例】

・必要な睡眠量に満たない睡眠時間しか取れてない、あるいは取らない生活を継続している
・慢性的な睡眠量の不足に陥っている
・昼夜の症状として眠気、集中力の低下、焦燥感に襲われる
・これらの症状が睡眠量の不足によるという自覚に乏しい
・睡眠を十分にとること以外で症状の改善を行おうとしている
・平日と休日の睡眠時間の格差が2時間以上ある
・昼間の睡眠潜時が短い(8分以下)
 健常者で睡眠がしっかりとれている人は、暗いところで横になっても睡眠まで15分はかかるとされる

最後に

睡眠不足は立派な病気と医者も言うように眠ることは私たちにとって重要な仕組みであるのは言うまでもなく、その仕組みが正しく機能していない状態は病気といえるのではないでしょうか。

ネットでは多くの睡眠にまつわる情報が溢れており、一概に正しいと言えないものまであります。

従来、眼球運動を伴うレム睡眠は、眼球運動の伴わないノンレム睡眠と比べてあまり重要視されておりませんでしたが、中高年男性を12年間フォローアップした研究によれば、レム睡眠が5%減るごとに総死亡率が13%上昇すると言われております。

夜でも光がこうこうと照らす現代社会に於いて、睡眠不足というのは新しい健康被害のひとつであり、社会が豊かになった反面、現代人が直面する新たな課題なのかも知れません。

正しい睡眠を獲得する為にも、まずは正しい情報から自身の睡眠を探ることが何よりの第一歩になるのではないでしょうか。

 


【引用・参照】

Why Sleep Matters: Quantifying the Economic Costs of Insufficient Sleep
https://www.rand.org/randeurope/research/projects/the-value-of-the-sleep-economy.html

Global sleep survey
https://www.philips.com/c-dam/b2c/master/experience/smartsleep/world-sleep-day/2020/2020-world-sleep-day-report.pdf?_ga=2.34303205.514384333.1634090629-1628776310.1634090629&_gl=11r0z1o0_gaMTYyODc3NjMxMC4xNjM0MDkwNjI5_ga_2NMXNNS6LE*MTYzNDA5MDYyOS4xLjEuMTYzNDA5MDg4NS41OQ..

西野精治×堀江貴文

厚生労働省