高地トレーニングと血中酸素濃度

優れたアスリートは自分の身体を熟知しており、彼らの肉体や思考に多くの科学者が興味を抱き、同時に選手にとっても科学の力で記録を更新してきた背景があります。

研究から彼らの身体を守る方法や能力を向上させる方法が解明され、競技中の体温や睡眠、筋肉の酸素量やリハビリの研究によって人体には知られざる力があるという事が分かってきました。

「低酸素トレーニング」

地球上には大気が存在し、高度によって酸素濃度が低下し、人体に様々な影響を及ぼします。
特に酸素を運搬するヘモグロビンの酸素飽和度は、酸素濃度が低下すると共に減少していきます。
しかし、短期的にも長期的にもこの低酸素状態に人体は順応する事が出来、不足する酸素をある程度まで補填する能力があります。
この順応する能力を活用したトレーニングが低酸素トレーニングになり、順応する事によって赤血球の増加を促し、酸素運搬能力を高める事を目的とします。

「酸素飽和度」

酸素飽和度は動脈血酸素飽和度(SpO₂)を指し、心臓から全身に運ばれる動脈血に含まれるヘモグロビンのうち、全体の何割が酸素と結合しているかを示す値です。
別の視点で言えば肺からどれだけ効率よく酸素を取り込めているのかという機能を表しており、成人でSpO₂98%、高齢者でSpO₂95%とされています。

 

 

Saturation (飽和)・Pulse (脈)・O2 (酸素)

 

「最大酸素摂取量」

最大酸素摂取量(VO₂max)は、全身の細胞レベルで利用できる酸素の最大値です。
全身のコンディショニングレベルと相関が高いことが判明しており、心肺機能能力を示す最も一般的な指標です。
安静時最大酸素摂取量は3.5ml/kg/分と推定されており、持久系アスリートの最大酸素摂取量は80ml/kg/分と言われています。
全身持久力の指標とされている事から有酸素性能力や有酸素性パワーとも呼ばれています。

 

 

Maximal Oxygen Uptake

 

「海外での取り組み」

フランス東部のプレマノンで科学者ローラン・シュミットの下、バイアスロンのトレーニングが行われています。
選手の健康増進と競技力向上の両立を目的とし、野外のトレーニングと低酸素施設での休息を交互に行い、2週間の強化合宿を実施しています。

 

 

野外トレーニングでの環境・・・標高1200m/酸素濃度20.95%

 

 

 

トレーニング以外での環境・・・標高2780m/酸素濃度17.9%

 

低酸素トレーニングではアスリートの身体が無理なく進化し、血中の赤血球数を増やすことで筋肉中の酸素を効率よく活用する事ができ、同時に筋肉の細胞レベルで酵素の働きが改善します。
しかし、低酸素でのトレーニングは酸素欠乏症という危険が伴う為、一人ひとりのアスリートを徹底して管理する事が重要になります。
フランスの場合、低酸素状態にアスリートが適応できているか、血中の酸素飽和度を調べ、88~93%に保つようにトレーニング強度や日程が組まれます。基準値よりも低い場合は疲労が蓄積してしまい、逆に高いようなら身体に十分な負荷がかかっていないと判断されます。

 

 

Biathlon

 

biathlon

 

「最後に」

上記のように高地トレーニングでは心肺持久力やエネルギー産生能力に著しい変化を与えます。
一般的にアスリートの最大酸素摂取量を1%改善する事が出来たら意義があるとされる中で、低酸素トレーニングを適切に行えば3~4%改善できると言われます。
それには定量的に選手のコンディションを把握し、計測によって最大酸素摂取量や酸素飽和度などを記録する事が重要になり、スポーツサイエンスの進歩がアスリートを支えていると言っても過言ではありません。