ヒトの腸管には約1,000種類、100兆個の腸内細菌が生息していると言われます。
私たちの細胞の数は約37兆個なので2.5倍も多い計算になります。
これらの腸内細菌は出身国や年齢、生活習慣によって大きく変動すると言われますが、一般に一生を通じて殆ど変化しないと言われ、変動があった場合でも時間の経過とともに元の状態に戻ります。
「アスリートと腸内細菌叢」
2019年に行われたボストンマラソンにて走り終わった選手の腸内細菌を調べる実験が行われました。
ボストンマラソンは米国マサチューセッツ州で毎年4月に行われるワールドマラソンメジャーズの1つです。
完走者の平均タイムが世界大会の中でも抜きん出て速い特徴がある為、選手の多くがトップアスリート揃いであり、実際に高タイムを出した選手には共通した腸内細菌が見られました。
「ベイロネラ・アティピカ」
共通した細菌とはベイロネラ・アティピカであり、研究者は「運動能力に関係があるのでは?」との仮説から無菌マウスに移植する実験を行いました。
通常のマウスに比べるとベイロネラ・アティピカを移植されたマウスは13%も長い距離を走る事ができ、乳酸を腸内フローラの働きによってエネルギーに変換している事が分かりました。
私たちが筋肉を動かす事で発生する乳酸の一部は腸へ届きます。
腸内では、届いた乳酸を利用しプロピオン酸を生成、肝臓で新たな糖が作られ、利用されるという仕組みになります。
「乳酸」
私たち人間が食べたものからエネルギーを作り出す時の方法の1つに解糖系と呼ばれるものがあります。
特に炭水化物を摂取するとブドウ糖まで分解されますが、解糖系ではそれらのグルコース(ぶどう糖など)をピルビン酸等の有機酸まで分解し、生物がエネルギーを使いやすい形に変換します。
糖質が乳酸になる過程は乳酸性機構と呼ばれており、グリコーゲン→ピルビン酸→乳酸の順番で生成されます。
発生した乳酸は再びエネルギーとして利用されますが、血中に急激に増え始めるラインを乳酸性作業閾値(LT/Lactate threshold)とし、運動強度の指標として利用されます。
「プロピオン酸」
カルボキシ基(-COOH)を保有するカルボン酸の一種であり、酢酸や酪酸と同様に短鎖脂肪酸の一種になります。
大腸の腸内細菌叢によって難消化性多糖類から生成され、濃度の違いによる受動拡散や他の物質と結合し細胞膜を通過する担体輸送によって細胞のエネルギーとされます。
また一部は門脈を経て肝臓へ貯蔵されます。
「最後に」
1000種類100兆個も存在する腸内細菌ですが、近年非常に研究されている分野になります。
それは今まで関係ないと思われてきた健康や美容、身体能力等と密接に関係があるという事が分かってきており、寿命と細菌叢や免疫と細菌叢など多くの論文が引用されています。
関係が分かれば実際の応用に落とし込む実用化が鍵になります。
競技能力を高める事が出来る日もそう遠くない未来にやってくるかもしれません。
【参照・引用】