そもそも脂質とは
健康問題で取り上げられるトランス脂肪酸ですが脂質の仲間になります。
その上でそもそも「脂質とは何か?」を改めて考えてみたいと思います。
脂質とはグリセリンと脂肪酸が化学的に結合した化合物であり、水に溶けず有機溶媒に溶ける性質を持っています。
有機溶媒とは…
常温常圧で液体の有機化合物の総称になり、水に不溶な物質を溶かす性質を持つ。
脂質の構成①「グリセリンとは」
脂質を構成するグリセリンは別名「グリセロール」と呼ばれ、3価のアルコールの一種で化学式はC3H8O3の構造を取ります。
・食品添加物
甘味料、保存料、保湿剤、増粘安定剤などの用途
・医薬品や化粧品
保湿剤、潤滑剤として石鹸や練り歯磨き粉に使用
・機械工業
冷却水の不凍液として使用
脂質の構成②「脂肪酸とは」
脂肪酸は炭素の原子が鎖状につながった長鎖炭化水素で端にカルボキシル基(-COOH)を持つ1価のカルボン酸です。
鎖の長さや炭素の結合様式によって分類が変わり、よく聞く飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸は炭素鎖が単結合のみかそれ以外かによって分類される名称になります。
【炭素数による分類】
炭素数が6未満 -短鎖脂肪酸(short-chain fatty acid)
炭素数が6-12 -中鎖脂肪酸(middle-chain fatty acid)
炭素数が13-21 -長鎖脂肪酸(long-chain fatty acid)
炭素数が22以上 -超長鎖脂肪酸(very long-chain fatty acid)
※炭素数が10以上のものを高級脂肪酸(higher fatty acid)とも
【不飽和度による分類】
炭素鎖が単結合のみ -飽和脂肪酸(saturated fatty acid)
炭素鎖が二重結合以上 -不飽和脂肪酸(unsaturated fatty acid)
体内での重要な役割
グリセロールと脂肪酸が結合する事によって脂質を作り、その脂質は私たちの身体で生理作用として多くの役割を担っています。
悪いイメージを持たれる脂質ですが3大栄養素に列挙されるほど生きる上で必要不可欠な栄養素であり、中でも必須脂肪酸は体内で合成が出来ない事から必ず摂取する必要があります。
1.人体に60兆個ある細胞を構成する細胞膜の成分
2.重要なエネルギー源
3.レチノール、レチナール、レチノイン酸の吸収を促進する
※リノール酸やα‐リノレン酸などの必須脂肪酸は、人体で合成が出来ない為外部からの摂取が必要
トランス脂肪酸の健康リスク
食品安全委員会によるリスク評価では、トランス脂肪酸の過剰摂取による悪影響の1つに冠状動脈疾患を増加させると指摘されております。
冠状動脈とは、心臓を取り巻くように走っている動脈があり、これらは絶えず鼓動をくり返す事で心臓に酸素と栄養を供給します。
冠状動脈疾患は、右心房と右心室側に走る「右冠状動脈」、左心房と左心室側に走る「左冠状動脈」に起因する病気の名称となります。
右冠状動脈(Right coronary artery)
左冠状動脈の円錐枝(Conus branchi of left coronary artery)
冠状動脈疾患(Coronary heart disease)は英語の頭文字を取り「CHD」とも表記され、主なものに動脈硬化が原因で血管の中が狭くなる狭心症や完全に詰まってしまう心筋梗塞があります。
これらにトランス脂肪酸が深く関わっているという研究が各国から多く報告させられており、また肥満やアレルギー性疾患等との関連も示唆されております。
安全な食品とは
トランス脂肪酸について健康問題を取り上げると枚挙にいとまがありませんが、過去の経緯を振り返ってみると多くの食品と健康との間には安全性についての問題が多く残っております。
そもそも安全性とは何かを考えた場合、「病気にならない」や「臓器に負担をかけない」など色々な理由が思い浮かぶと思います。
食品の安全性とは、身体に吸収された量と毒性によるものとされ、結論から言えばどんな物質も食品も毒に成り得ます。
水も過剰に摂取した場合は水中毒となり、体内の水分バランスが過剰で引き起こされる「低ナトリウム血症」を引き起こし、意思とは関係なく筋肉が細かい収縮を繰り返す「痙攣」を起こてひどい場合には死に至ります。
必要な量を超えて吸収してしまった結果、健康に悪影響を及ぼす食品というものは、多くの食品に存在し、トランス脂肪酸もその一つになります。
水 → 低ナトリウム血症
食塩 → 高血圧
ビタミンA → 吐き気や頭痛
ビタミンE → 出血や筋力低下、疲労
ビタミンD → 高カルシウム血症
日本人の摂取量
現在、日本人の大多数はトランス脂肪酸によるエネルギー比が全体の1%未満とされていることから大きな問題になってはいません。
しかし、健康リスクの可能性から企業による自主的な低減措置が講じられています。
世界保健機関であるWHOでは、飽和脂肪酸や特定の不飽和脂肪酸について食品から摂る量を定めています。
特にトランス脂肪酸については、食品から摂取する必要がないと考えられており、摂り過ぎた場合の健康被害について注目がされています。
これら健康への悪影響については、実のところ脂質の摂取量が多い欧米人を対象とした研究を基にしており、脂質摂取量の少ない日本人の場合も同様の影響があるのかは明らかになっていません。
油脂の加工で発生する人工的なトランス脂肪酸と天然に存在するトランス脂肪酸の両者で同様の影響があるのか、また数多く存在するトランス脂肪酸の中で何が一番影響を及ぼすのかという点についても、十分な科学的知見が出ていないと言えます。
具体的な摂取量についてですが、国際機関が生活習慣病予防の為の専門家会議にて総脂質量、飽和脂肪酸、不飽和脂肪酸について目標値を定めました。
その中でトランス脂肪酸の摂取量を総エネルギー量の1%相当よりも少なくするよう勧告しております。
日本人は1日の平均摂取エネルギー量は1,900kcalの為、1%である19kcalからトランス脂肪酸の量は約2gとなります。
その上で各団体が調べた日本人のトランス脂肪酸の平均摂取量は下記のとおりです。
農林水産省 | 食品安全委員会 | |
実施年 | 2005~2007年 | 2012年 |
平均摂取量 | 0.92~0.96g/日 | 0.63g /日 |
平均総エネルギー摂取量 | 0.44~0.47% | 0.3% |
1日のトランス脂肪酸の摂取上限が2gと言われる中で平均1g未満の摂取量から、大きな規制にはなっていません。
日本人とトランス脂肪酸
脂質は三大栄養素の1つである事から摂取量が少なすぎる場合は健康リスクを高めるとされる一方で、炭水化物やタンパク質に比べて1g当たりの熱量が大きい事から、肥満や生活習慣病のリスクを高めるとされます。
トランス脂肪酸は、日本人の大多数がエネルギー比1%未満であり、健康への悪影響が懸念されるレベルを下回っていることから、通常の食生活への影響は小さいと結論されています。
農林水産省では、健やかな食生活を送るためにはトランス脂肪酸という一成分だけを気にするのではなく、現状において日本人が摂り過ぎとされる「脂質」や「塩分」に対しての意識が重要としています。
実際に厚生労働省の調査では、日本人を対象として脂質の摂取量からみる脂肪エネルギー比率を調べた結果があります。
成人男性 約35%
成人女性 約43%
※平成30年(2018年)実施
トランス脂肪酸について多くの健康に対するリスクが懸念されますが、トランス脂肪酸の摂取量よりも脂質そのものの摂取量を意識する必要があるとみられます。
【参照文献】
脂質の話
農林水産省/トランス脂肪酸に関する情報
食品安全委員会/食品に含まれるトランス脂肪酸の食品健康影響評価の状況