低出生体重児とDOHaD仮説

巷では「ダイエット」が若い女性の間で流行っておりますが諸外国とで比べた場合、日本人女性の肥満率は先進国の中で最も低いとされます。

経済的な背景から食糧事情によって痩身女性の割合が多くなる国もありますが、一般的に先進国では肥満率が高くなり、貧困国では痩身率が高くなる傾向があります。

諸外国の痩せの割合

下記の統計は各国の1人当たりのGDPと痩身女性(BMI<18.5)の割合となります。

痩身女性が多い国としてインドやバングラディシュが特に目立っておりますが、一般的に所得の低い貧困国では痩せ過ぎの女性が多くなるという傾向があります。

OECD(経済開発協力機構)が発表している「ODA(政府開発援助)受取り国リスト」に記載されている以下の先進国の中で見た場合、日本の痩身女性の割合は他の先進国と比べ唯一2桁と痩せの女性が多い事が分かります。

  • 米国-3.3%
  • 韓国-6.5%
  • 英国-5.9%
  • 伊国-5.8%
  • 日本-11.0%

出生数と低出生体重児の割合

痩せている女性のリスクとして低出生体重児の問題があります。

実は母体のBMIが低いほど新生児の出生体重も低い傾向にあり、生まれた子供はその後の健康リスクにさらされることが分かっています。

出生数と低出生体重児の割合について人口動態統計によれば1980年から2015年までの35年間で4.3%増加に転じており、若い女性の痩せが低出生体重児の出生数に影響していると考えられます。

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低出生体重児の定義

WHO(世界保健機関)によれば出生体重2500g未満を低出生体重児としており、出生体重から以下の名称に定義されています。

出生体重 名称 略称
4000g以上 高出生体重児 high birth weight infant
2500g以上4000g未満 正出生体重児 normal birth weight infant
2500g未満 低出生体重児 LBW=low birth weight infant
1500g未満 極低出生体重児 VLBW=very low birth weight infant
1000g未満 超低出生体重児 ELBW=extremely very low birth weight infant

背景要因

低出生体重児が生まれる背景は母体の痩身以外にも様々あり、母体側の要因と子ども側の要因とで大別されます。

母体側の要因としては妊娠高血圧症候群や常位胎盤早期剥離などがあり、子ども側の要因としては2人以上の赤ちゃんを同時に妊娠する多胎妊娠や何らかの理由で胎児の発育が遅延または停止によって発育が見られない状態である胎児発育不全があります。

下記は、低出生体重児の背景として考えられる母体側の要因になります。

【低出生体重児の背景】
・妊娠高血圧症候群
…妊娠後に高血圧(140/90mmHg以上)を発症した状態
・常位胎盤早期剥離
…子宮体部に付着している胎盤が分娩以前に子宮壁より剥離する状態
・子宮頚管無力症
…臨月を迎える前に子宮頸管が開いてきてしまう状態
・前置胎盤
…胎盤が正常位置よりも膣側に違い位置に付着し、内子宮口の一部または全部を覆っている状態
・感染症の為に早産にならざるを得ない場合
・妊娠中の喫煙習慣がある場合
・母体に痩せがある場合

健康リスク

痩せた女性の摂取カロリーは1日の必要量を大きく下回る低栄養状態とされ、母体環境から胎児が栄養を溜めやすい体質を作ると言われています。

結果として生まれた子どもは、過度に栄養を溜めやすい体質となる事から健康リスクが高まると考えられ、以下の疾患が正出生体重児と比べて発症のリスクが高くなると報告されています。

【低出生体重児の健康リスク】
・2型糖尿病
・脂質異常症
・メタボリック症候群
・慢性腎臓病(CKD)
・脳梗塞
・虚血性心疾患
・骨粗しょう症

ドーハッド仮説

痩せた母体によって低栄養状態の環境下では、胎児も低栄養下の環境を子宮内で過ごす為、その環境に適応する形で遺伝子が働きます。

少ない栄養状態で生き抜くように身体は形成されますが、出生後の背景をみれば飽食による環境、運動不足による消費カロリーの低下など多くの社会的事情が合わさり、健康リスクを上げているとされます。

これを「DOHaD仮説(Developmentl Origins of Health and Disease)」と言い、日本語では「生活習慣病胎児期発症起源説」と言われます。

1980年代から1990年代初頭にかけて低出生体重児はメタボリックシンドロームを発症するリスクが高いという疫学調査が相次いで報告され、胎児プログラミング仮説が提唱されましたが、他の要因を考慮し一般化したものがDOHaD仮説となります。

DOHaD仮説とは
…将来の健康や特定の病気へのかかりやすさは、胎児期や生後早期の環境の影響を強く受けて決定されるという概念

推奨される身体作り

第一に、クライアントとの面談で身体組成や食習慣など現状把握を行ったうえで理想とする体形を詳細にヒアリングし、現状とのギャップを正しく判断する事が重要になります。

クライアントとトレーナーとの間に乖離があった場合、途中で相違が出てくる可能性があります。その為に、なるべく双方の認識を一致させ、理想とする体形についての情報をまとめ提示する事が何よりも大切になります。

「痩せたい」と言っても単に体重だけを指している場合もあれば、見た目を指している場合もあり、多くの場合が後者になります。見た目としての体形は体脂肪率が担っているという事を理解して頂き、その上で食事管理やトレーニングプログラムを構成する事が重要になります。

面談に於いてクライアントの現状把握と分析を実施

「痩せ」に対するギャップを埋める

目標に対して食事管理やトレーニングプログラムの構成

最後に。

痩せは一見すると健康的に見えるかもしれません。

しかし、過剰な運動が身体を壊すように、過剰な痩せも行き過ぎる事によって弊害が生まれます。

理想とする体形について考えた場合、細くする事は何も体重を落とす事だけが全てではありません。

一般的に理想とされる体格はBMIが22といわれ、前後の20~23が健康で妊娠もしやすく、胎児にとっても過ごしやすい環境とされ、コンテスト競技者でない限り極端な体重の減少によって身体作りを行う事は推奨されません。

体形を大きく決定付ける要因は体脂肪であって体重ではないという事を踏まえ、体脂肪率をコントロールし身体作りを行う事が、体形と健康を両立する鍵になります。


~参考文献~
生れる前から不平等 胎児を蝕む貧困
低出生体重児 保健指導マニュアル
低出生体重児の母体要因に関する疫学研究