トレーニングをする多くの人は、身体を作るに当たってタンパク質は必須の栄養素になり、それは筋肉や皮膚、髪の毛や骨の材料となります。
数か月前からホエイパウダーの需要増加によって値段が高騰し、新しい代替食を探している方も多いようです。
肉や魚はもちろん、大豆や玄米などタンパク質を多く含む食品は主要ではないにしろ存在し、昆虫もその中の一つと考えられます。
昆虫のタンパク質含有量
昆虫食はSDGsでよく取り上げられますが、意外に知られていない魅力の1つに高たんぱくな食品の1つであることが言えます。
下のグラフでは、主要な食品の含有量を比べた物ですが、肉類や鶏卵、大豆や牛乳と比べて昆虫のイナゴは群を抜いて高いタンパク質含有量があります。
水煮大豆や牛乳は基本的にそのまま食する事が多く、掲載されるタンパク質量が摂取時の量となる場合が殆どです。
しかし、イナゴの調理方法では佃煮やフリーズドライなど水分含有量を少ない状態で食する事が多く、食べた時の印象と比較して少量で多くのタンパク質を摂取する事ができます。
肉類は全般的に全体の1/5がたんぱく質なので100g当たり約20gとなりますが、イナゴは1/3がたんぱく質と考えると驚異的な数字です。
・卵 - 12%
・大豆 - 15%
・肉類 - 20%
・イナゴ - 30%
タンパク質の多い昆虫
世界で食される昆虫の種類は実に1,400種とされ、アジアの29カ国、南北アメリカの23カ国、アフリカの36カ国で食べられていると言われます。
グラフではカイコ、コオロギ、キリギリス、シロアリ、バッタを例に挙げておりますが、それぞれに幅はあれど含有量の高い昆虫はバッタの100g当たり35g~48gといえそうです。
・1,400種類もの昆虫が食べられている。
・全世界88カ国で食されている。
日本の昆虫食
長野県の南信地域の伊那谷(いなだに)では今も昆虫食が根付いており、イナゴ以外にも蜂の子や蚕、さざむしを食べるそうです。
また、群馬県などの海産物が少ない山間部では戦時中や戦後の食糧難でイナゴを食べて緊急時の栄養補給源として用いていた記録もあります。
ある意味、イナゴや蜂の子などは日本人とって馴染みのある昆虫食の1つといえ、他の食品と比べた時のタンパク質含有量は非常に高い事も栄養補給源として重宝されてきた背景なのだと言えます。
・長野県の南信地域の一部では、イナゴや蜂の子、サザムシ、蚕などを食する。
・群馬県の山間部では緊急時の食糧補給として昆虫を食する。
イナゴの佃煮
昆虫の中でもバッタは100g当たりのタンパク質量が豊富といえ、日本でも同じ昆虫の仲間である「イナゴ」を食する文化があります。
採取されたイナゴはすぐに調理される事はなく、一定期間エサを与えずに排泄物を出した後、調理されます。
一般的に使用される佃煮の調味料は砂糖・醤油・サラダ油・みりんと非常にシンプルなものとなっています。
たんぱく質 23.6g
脂質 1.4g
炭水化物 32.3g
マグネシウム 32mg
リン 180mg
鉄 4.7mg
亜鉛 3.2mg
ビタミンB2 1.0mg
葉酸 54µg
(出典:日本食品標準成分表2020年版(八訂))
いなご、砂糖、しょうゆ、水飴、みりん/調味料(アミノ酸)、保存料(ソルビン酸K)
コオロギせんべい
コオロギは100g中のたんぱく質が8~25gとカイコの次に多い昆虫です。
写真のせんべいに使用されるコオロギは、パウダーとエキスを使用しており、実際に食べた風味や味はエビせんべいと同じ印象を受けました。
言われなければコオロギが原料という事すら分からないどころか、言われても本当にコオロギが入っているのかと思うほどにクセがありません。
たんぱく質 5.0g
脂質 1.1g
炭水化物 46.6g
食塩相当量 2.0g
馬鈴薯でん粉(国内製造)、コンスターチ、食用コオロギパウダー、食塩、たん白加水分解物、食用コオロギエキス、エリスリトール、醤油、植物油、海老粉/調味料(アミノ酸)、(一部にえび・小麦・大豆を含む)
販売者:株式会社無印計画/東京都豊島区東池袋4-26-3
製造者:株式会社山三商会/愛知県知多郡南知多町大字豊浜字貝ヶ坪29-1
栄養価について:イナゴの佃煮
イナゴの佃煮は砂糖と醤油で調理をするシンプルな方法ですが栄養成分は非常に優れており、タンパク質が100gあたり23.6gも摂取する事が可能です。
また、他の栄養も豊富で鉄や亜鉛などの人体に欠かせない必須ミネラルが豊富に含まれています。
鉄(Fe)
鉄(Fe)は持久系のスポーツで多く消費される栄養素になり、赤血球のヘモグロビンや筋肉のミオグロビンを作る材料となります。
不足すると思考力の停滞や貧血などを起こし、学習能力や運動能力の低下を引き起こします。
鉄の含有量を比較すると一般的に多いとされる食品は、マイワシ(2.1㎎/100g)、カツオ(1.9㎎/100g)などが挙げられ、中でもイナゴの佃煮(4.7mg/100g)はそれを超える鉄の含有量なので非常に優れた食品だと言えます。
マイワシ - 2.1㎎
カツオ - 1.9㎎
イナゴの佃煮 - 4.7㎎
亜鉛(Zn)
また、特に豊富な栄養素として亜鉛(Zn)が挙げられますが、これはウナギの蒲焼に多く含まれている事で有名な栄養素です。
夏の土用丑の日にウナギを食べて体力をつけようといわれる由縁は、連日続く夏の暑さによって体力の低下をウナギを食べる事で回復させようという意味が込められています。
実際にウナギに含まれる亜鉛は、タンパク質・DNAの合成や免疫反応の調整、200種類以上の酵素を作り身体の機能を整える働きがあります。
ウナギの蒲焼(2.7㎎/100g)やホタテ(2.7㎎/100g)、たらこ(3.1㎎/100g)は亜鉛の多い食材になりますが、イナゴの佃煮(3.2㎎/100g)はそれ以上の亜鉛を含むことが分かります。
ウナギの蒲焼 - 2.7㎎
ホタテ貝(生) - 2.7㎎
たらこ - 3.1㎎
イナゴの佃煮 - 3.2㎎
栄養成分表
下記のリストはイナゴの佃煮100gに含まれる栄養成分表になります。
鉄や亜鉛だけでなく、骨や歯を作るリン(P)や脂質代謝に関わるビタミンB2、造血作用を持つ葉酸など多くのビタミン・ミネラルが含まれています。
エネルギー | 243kcal |
たんぱく質 | 23.6g |
脂質 | 1.4g |
炭水化物 | 32.3g |
マグネシウム | 32㎎ |
リン | 180㎎ |
鉄 | 4.7㎎ |
亜鉛 | 3.2㎎ |
ビタミンB2 | 1.0㎎ |
葉酸 | 54μg |
栄養価について:コオロギせんべい
コオロギについては優れた栄養価と併せて、「陸のエビ」と呼ばれるように昆虫の中でも優れた食味を持っている事も特徴です。
しかし、せんべいの場合はそのまま食すわけではないので本来高い栄養価を持っていても煎餅としての側面が大きく出てきます。
オメガ3脂肪酸
コオロギを粉末状にしたパウダーの場合、100g中に含まれるオメガ3は2.81gとなります。
オメガ3は不飽和脂肪酸の仲間であり、魚油やエゴマ油、亜麻仁油など健康食品の代表格ともいえる油に多く含まれています。
コレステロールの低下やアレルギー抑制など人体にとって必要な脂肪酸として必須脂肪酸の1つとされます。
DHA(ドコサヘキサエン酸)…マグロやブリなどに多く含まれる
EPA(エイコサペンタエン酸)…イワシやサバなどに多く含まれる
α‐リノレン酸…エゴマや荏胡麻(えごま)に多く含まれる
オメガ6脂肪酸
オメガ6脂肪酸では100g中に6.28gも含まれており、血中コレステロールを低下させると報告されています。
また、認知機能の改善が見込まれるとされる一方で、乳児の脳を発達するのに欠かせない脂肪酸として母乳に多く含まれている特徴があります。
リノール酸…菜種油やクルミに多く含まれています
アラギドン酸…卵黄や豚レバーに多く含まれています
最後に。
栄養の面からとても有能な昆虫食ですが、何よりも「食べる」というハードルが高いような気がします。
しかし、何事も経験が重要であり、まずは食べてみるという事が何よりも大切です。
現在の昆虫食には、パウダー状にした物やフリーズドライ製品などがあり、何かに加えたり、そのまま食べたりと調理方法が殆ど必要のないものが多く販売されております。
日本で買える商品や実際に売っている昆虫を探してみる事から始めてみるのが良いかと思います。
【参照・出典】
世界が注目する昆虫食
農林水産省:うちの郷土料理