テニス肘に対してのアプローチ(臨床編)

手首を起こす、または強く握るなどの動作で肘の外側に痛みを発生するテニス肘ですが、1883年にテニスのバックハンドストローク時の痛みとして報告されたのが切っ掛けとなり名称となっています。

有効な方法として取り上げられた内容を報告いたします。

外側上顆痛の罹患者

通称「テニス肘」と呼ばれ、外側顆総指伸筋腱への繰り返しの微細損傷を特徴とする骨格筋系の疾患です。

35~55歳に多く、有病率は一般の1~3%とされ、罹患者の70%が利き腕に発症します。

また手を反復して使用する労働者の15%に見られる傾向があり、競技者の場合になるとテニス選手の9%が罹患し、プロよりも新人に多いという特徴があります。

【罹患者の特徴】
・35~55歳に多い
・有病率は一般の1~3%
・70%が利き腕側に発生
・15%の手を反復して使用する労働者
・9%のテニス選手(プロ<新人)

好発部位

テニス肘には一定の傾向があり、多くの場合は短橈側手根伸筋腱に痛みを訴え、全体の1/3が総指伸筋腱にも痛みを訴えます。

【短橈側手根伸筋/extensor carpi radialis brevis】 muscle
起始:上腕骨外側上顆
停止:第3中手骨底背側
テニス肘に対してのアプローチ

【総指伸筋/extensor digitorum muscle】
起始:上腕骨外側上顆
停止:第2~5指の末節骨及び中節骨
テニス肘に対してのアプローチ

一般的療法

オーバーユース障害の1つであり、痛みが大きく、機能に多大な影響を及ぼす事から痛みを緩和するサポーターなどが販売されています。

基本的には保存療法となりますが、活動再開と共に痛みの再発が多いといわれます。

痛みを解消するアイテム

 

 

温存療法以外のアプローチ

Svernlov&Adolfssonはランダム化比較試験を実施し、症状の持続期間に関わらず、外側上顆痛の最も有効な治療介入は伸張性エクササイズであるとしています。

その上で下記の評価による状態の分析と器質的な変化を捉える事が大切になります。

Nirschlによる5段階評価

ステージ0・・・炎症のない組織化されたコラーゲン線維によって腱が構成している健康な状態

ステージ1・・・急性疼痛、腫脹、局所圧痛、熱感、ごく僅かな機能障害という最初の兆候段階

ステージ2・・・意図的に腱に負担を掛けない事を特徴とし、臨床的にはステージ1よりも程度の大きい慢性腱障害がある。また微細断裂と退行性変化が認められる。
退行性変化-細胞の機能低下によって本来の働きを失い、細胞の形質変化や脂質の固着がみられる状態

ステージ3・・・疼痛の有無に関係なく、コラーゲン線維の配向の乱れや浮腫に起因する触知可能な腱肥大、血管障害に起因する巣状壊死などの慢性的な構造変化が発生し、機能障害はステージ2よりも進行している。

ステージ4・・・腱の完全な断裂
腱に漸進的な伸張性負荷をかける事はⅠ型コラーゲンの合成を促し、腱の肥厚を抑制してステージ3の退行性合併症に対抗できる可能性がある。

仮説

Bigland-Richie&Woodsによれば伸張性エクササイズは短縮性エクササイズに比べて発揮される力が大きく、酸素消費量とエネルギー需要が少ない為、変形した腱構造のリモデリングが促進されます。

これは伸張性運動には、短縮性運動に比べてエネルギーを効率よく利用して、機械的刺激を与える事が出来る。機械的刺激が増える事によって少ない痛みで効率よく回復に向かわせることが出来るとされます。

またリモデリングは、メカノトランスダクションの過程を介して起こる事も理由の一つです。

メカノトランスダクション(Mechanotransduction)とは
…機械的負荷に対して適切な構造的変化を促す細胞の生理学的反応

過去の臨床

一般的に外側上顆痛の再発率は24%といわれ、実に4人に1人が繰り返すとされます。

当初アキレス腱炎に対しての伸張性エクササイズによる介入は良好な物であり、アキレス腱炎と外側上顆痛には同様の変性が認められる点から外側上顆痛に対しても同様の方法が用いられました。

【2007年/Croisierらの臨床】
-対象人数- 92名(各46名)
-方法- 各群へそれぞれ週3回のプログラムを実施。
-期間- 9週間
-経過観察方法- 疼痛の強さ、筋力、腱構造の均一性(Tendon integrity)、機能状態を記録。
-実験群- 対象群の受動的介入に手関節の伸展筋群と回外筋群の等速伸張性エクササイズを追加
-対象群- 緩和ケア・ストレッチング・深部マッサージ(Deep friction massage)等の受動的介入プログラム
-考察- 伸張性エクササイズを実施た群は対象群に比べて疼痛が優位に少なく、両側性の筋力低下が緩和し、腱構造の均一性が向上(病変の消失を示すエビデンス)、機能障害が改善した。
【1998年/Alfredsonらの臨床】
-対象者- 慢性アキレス腱炎のアスリート
-方法- 週7日間に渡って1日2回伸張性エクササイズを実施
-期間- 12週間
-考察- Croisierらの方法とは異なるがポジティブな結果となった。

上記の臨床試験より現段階で至適処方量を決定する事は難しいとされます。

その為、用いる場合は頻度/強度の低いプロトコルを用いるのが妥当と言われています。

【応用編】についてはこちらからお願いします。


【参照・引用】
NSCA-JAPAN Strength & Conditioning Journal